「返金しない」条項の書き方:「返金不可」を五つに分ける

「返金不可」の一言には、性質の違う複数の取り決めが重なっています。提供済みの対価、手配済みの実費、預り金、違約金、入会金に分けて、理由を添えて書く方法を整理します。

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「理由の如何を問わず返金しない」と書くと、事業者に原因があって提供できなかった場面まで含んで読まれます。通用する範囲に絞って書くことが、条項を守る近道です。

このページの要点

  • 返金しない部分は、提供済みの対価・手配済みの実費・預り金・違約金・入会金に分け、区分ごとに理由を書く。
  • 「開始」の時点は一つに定義し、開始前後で返す範囲を段階的に分ける。民法648条3項の割合の考え方が出発点になる。
  • 事業者の責めや事情で提供できない部分は、返金しない定めの外に置く。消費者契約法8条の2・9条1項1号・10条の審査を前提に書く。
  • クーリング・オフなど法定の出口は規約では消せない。「法令により撤回・解除できる場合はその定めに従う」と、関係を一文で明示する。

結論:「返金しない」は一つの取り決めではない。分けて書き、理由を添え、法定の出口を残す

「返金不可」「いかなる場合も返金しない」「開始後は一切返金しない」。個人のお客様を相手にする規約や契約書で、多くの契約書で見られる傾向として、よく置かれる一文です。手配した費用や確保した枠が戻らない以上、事業者が返金を絞りたいと考えるのは自然なことです。ところが、この一文は、性質の違う複数の取り決めを一度に言い表しているため、どの部分が通用し、どの部分が通用しないのかが、書いた側にも読む側にも見えなくなります。

見えないまま運用すると、返金の求めを受けるたびに「規約に書いてあります」と答えることになります。けれども、書いてあることと、その通りに効力が認められることは別です。争いになったときに審査を受けるのは、一文全体ではなく、一つひとつの取り決めの中身です。

このページの結論は、次の四つです。

  • 返金しない部分を、区分に分けて書く。既に提供した分の対価、手配済みの実費、預り金、違約金、入会金は、性質も、返さない理由も違う。区分ごとに理由を添える。
  • 開始の前と後で、返す範囲を分ける。「開始」の時点は一つに定義し、段階ごとに「何を控除して、何を返すか」を文章にする。
  • 事業者に原因があるときは、返金しない定めの外に置く。事業者の責めや事情で提供できなかった部分は、返金する、と別の条で書く。
  • 法定の出口は規約では消せないと理解して、関係を一文で書く。クーリング・オフなど法令に基づく出口が開く場合は、その定めに従う、と明示する。

返金しない条項を、通用する範囲に絞って書き直す作業は、返金を増やす作業ではありません。無効と判断されるおそれのある部分を減らし、残る部分を守る作業です。業種ごとの上限額や赤枠の書き方は各業種のガイドで扱い、このページでは、業種を問わず使える「条項の分け方」に絞ります。条項の無効の類型の全体は解約・返金の条項が無効になる類型の点検で、キャンセル料の金額の根拠はキャンセル料と平均的な損害の考え方で、取引の型ごとに開く出口の見分け方はクーリング・オフ・返品・中途解約の出口の比較で扱います。

「返金しない」と書いても残るもの

返金しないという定めを書く前に、確かめておくことがあります。それは、その定めを書いても消えないものは何か、という点です。先に知っておくと、書いてよい範囲が見えてきます。

返金しないと書いても残る、六つの根拠

法定

クーリング・オフ

訪問販売(特定商取引法9条)、電話勧誘販売(同法24条)、特定継続的役務提供(同法48条)などでは、書面または電磁的記録による通知を発した時に解除の効力が生じる。事業者は損害賠償や違約金を請求できず、受領済みの金銭を返還しなければならない。これに反する特約で申込者等に不利なものは無効(同法9条8項、24条8項、48条8項)。

法定

特定継続的役務提供の中途解約

政令で指定された役務で、期間と金額が政令の基準を超える契約では、クーリング・オフの期間が過ぎた後も、将来に向かって契約を解除できる(同法49条1項)。事業者が請求できる額には上限がある(同条2項)。これに反する特約で不利なものは無効(同条7項)。

法定

通信販売の商品の返品

広告に返品の特約を表示していなければ、商品の引渡しを受けた日から8日を経過するまで、申込みの撤回または解除ができ、返品の送料は購入者の負担(同法15条の3)。役務の提供には及ばない。特約を表示していれば、この制度は働かない。

法定

消費者契約法による取消し・無効

勧誘の際の不実告知などによる取消し(同法4条)。事業者の債務不履行による解除権を放棄させる条項の無効(8条の2)、過大な違約金の無効(9条1項1号)、消費者の利益を一方的に害する条項の無効(10条)。

法定

民法の解除と原状回復

債務不履行による解除(民法541条・542条)。解除すると各当事者は原状回復義務を負い、金銭を返還するときは受領の時から利息を付す(545条1項・2項)。解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない(同条4項)。

約定

約定の解約・返金

規約や契約で定める解約と返金の取り決め。法定の出口を狭めない範囲で設計する。このページが扱うのは、この約定の部分。

「法定」の札は、規約に何と書いても消えません。事業者が書けるのは、その外側の約定の部分です。

もっとも、どの取引にどの出口が開くのかは、取引の型で決まります。事業所で申し込まれた通常の役務にはクーリング・オフはなく、通信販売の法定の返品も商品に限られます。出口の見分け方の詳細は別のガイドに任せ、ここでは「返金条項を書く前に、自社の取引に開く出口を確かめておく」という順序だけを押さえます。なお、特定商取引法の通信販売などの規定は、営業のために、または営業として契約する相手には適用されません(同法26条1項1号)。

約定の部分についても、無制限に書けるわけではありません。消費者契約法は、事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させる条項(8条の2)、解除に伴う違約金のうち同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分(9条1項1号)、法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比べて消費者の権利を制限し義務を加重する条項のうち、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの(10条)を、それぞれ無効とします。返金しないという取り決めは、書き方によって、このどれかに触れ得ます。

たとえば「理由の如何を問わず返金しない」という定めは、事業者の側に原因があって提供できなかった場合まで含むと読めます。その場合、解除権の放棄(8条の2)や、一方的な不利益(10条)が問題になります。一方、「申込者の都合で解約した場合、手配済みの実費は返金しない」という定めは、返さない理由と範囲が具体的で、審査に耐えやすい形です。同じ「返金しない」でも、読まれ方がこれだけ違います。

返金しない部分を五つの区分に分けて書く

そこで、返金しない部分を、性質ごとに分けて書きます。実務でよく見られる例として、次の五つの区分で整理すると、条項の抜けと重なりが見つかりやすくなります。

返金しない部分の五つの区分

区分何を指すか返さない理由の書き方注意する点
既に提供した分の対価開始後に提供済みの回数・期間・成果物に対応する部分「提供済みの部分の対価として」と書き、回数や期間で数えられるようにする提供前の部分まで「提供済み」に含めない。提供の単位(1回、1か月など)を先に定義する
手配済みの実費事業者が第三者に支払い済みで、返還を受けられない費用(会場、仕入れ、外注、予約枠など)「第三者に支払い、返還を受けられない費用の実費として」と書く実費の範囲を超えて上乗せしない。総額に一律の率をかける方法とは別のもの
預り金(前受金)まだ提供していない部分の対価として受け取った金銭原則として返さない理由がない。返金の対象として書く「返金しない」の対象に混ぜない。混ぜると、提供のない対価を取り込む定めと読まれる
違約金(キャンセル料)解除に伴って支払う損害賠償の予定解除の時期などの区分ごとに額を定め、算定の根拠を整理する消費者契約法9条1項1号の対象。金額の考え方は別のガイドで扱う
入会金・登録料契約成立の事務や、会員としての資格・登録に対する対価何の対価か、何を提供するかを、名目ではなく内容で書く名目だけが入会金で、実質は前払いの役務の対価でないかを確かめる

既に提供した分の対価。返さない理由として筋が通りやすいのは、既に提供した部分の対価です。鍵になるのは「提供済み」の数え方です。レッスン形式なら実施した回数、期間で提供するなら経過した期間、成果物なら納品済みの成果物が単位になります。単位が決まっていないと、利用者は「一度も受けていないのに全額取られた」と受け止め、事業者は「教材にアクセスさせたから提供済み」と受け止める、という食い違いが生じます。提供の単位を定義し、その単位で割り算ができる書き方にしておくと、返金額の計算を説明しやすくなります。

手配済みの実費。事業者が第三者に支払い、返還を受けられない費用は、利用者の解約によって事業者に生じる損害の中心になります。会場の予約、仕入れ、外注の手配などです。ここでも、実費であることが大切です。第三者との間で、すでにキャンセル料が発生しているのか、返還を受けられるのか、再利用できるのかによって、返さない金額は変わります。実費が確定していない時期は、確定している範囲だけを控除し、確定していない部分は書かないか、見込みの範囲を明示します。実費に管理上の上乗せを加える書き方は、実費という説明と合わなくなります。

預り金。まだ提供していない部分の対価として受け取った金銭は、提供しないのであれば、受け取っておく根拠がありません。解除した場合、各当事者は相手方を原状に復させる義務を負い、金銭を返還するときは受領の時から利息を付さなければなりません(民法545条1項・2項)。解除でなくても、法律上の原因のない利得は、存する限度で返還する義務を負います(同法703条)。そのため、預り金は「返金の対象」として書くのが基本で、「返金しない」の対象に混ぜないのが安全です。

違約金。解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定める条項は、民法420条で認められます(違約金は賠償額の予定と推定されます。同条3項)。ただし、消費者契約では、これらを合算した額が、解除の事由や時期などの区分に応じた、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効になります(消費者契約法9条1項1号)。返金しないという取り決めが、実質的に解除に伴う違約金として働くときは、この審査を受けます。区分ごとの額と、その根拠の整理は、キャンセル料の考え方として別に整えます。

入会金・登録料。入会金は、返さない定めが置かれやすい項目です。返さない理由が「名目が入会金だから」では足りません。入会金が、会員の登録の事務や資格の付与に対する対価なのか、実質は最初の期間の前払いの役務の対価なのかで、返金の扱いは変わります。前者なら、登録が完了した後は返金しない、とする理由が書けます。後者なら、提供前の解約では、入会金に含まれる前払い部分を返金の対象にする必要があります。名目ではなく内容で書く、というのはこのことです。

書き方の例(一般的な例) 返さない範囲の書き方

全面不返還の一文

よくある書き方受領した料金は、理由の如何を問わず、一切返金しません。
整えた書き方受領した料金のうち、提供済みの部分の対価と、第三者に支払い済みで返還を受けられない費用の部分は、返金しません。提供していない部分は、第○条の定めに従って返金します。

理由返さない範囲を、理由のある二つに絞って書く。残りは返す、と明記することで、一文全体が過大と読まれる余地を減らす。

入会金

よくある書き方入会金は、いかなる場合も返金しません。
整えた書き方入会金は、会員登録の事務と会員資格の付与に対する対価であり、登録の完了後は返金しません。登録の完了前に解約した場合は、全額を返金します。

理由入会金が何の対価かを内容で書き、登録の前後で扱いを分ける。

開始の前と後で、返す範囲を分ける

次に、返金の範囲を、開始の前と後で分けます。多くの規約が「開始後は一切返金しない」という形をとる背景には、開始の前なら事業者の手間はまだ小さく、開始の後は準備や提供が進んでいる、という実感があります。この実感自体は理にかなっています。ただ、「開始」の定義と、開始後の返金の範囲の二点がずれていると、条項が一方的に読まれます。

開始の定義は、一つの時点に絞る。実務でよく見られる例として、「初回のレッスンを提供した時点」「教材に初めてアクセスした時点」「ログイン情報を渡した時点」のいずれか、という並べ方があります。「いずれか」と並べると、最も早い時点が開始になります。ログイン情報を渡した時点が開始に含まれるなら、申込み直後の自動送信のメールで「開始」に入ります。まだ何も受けていない利用者が、開始後の不返還の定めを受ける形になり、納得を得にくくなります。提供の実質が始まる時点を一つ選び、その前後で返金の範囲を変えるのが安全です。

開始後の返金は、割合で考える出発点を持つ。継続して役務を提供する契約では、民法648条3項が、報酬の定めのある委任が履行の中途で終了したときに、受任者が既にした履行の割合に応じて報酬を請求できると定めています。法律行為でない事務の委託には、委任の規定が準用されます(同法656条)。講座やコーチングなどの契約がこの類型に当たるかどうかは契約の内容によりますが、「提供した割合に応じて対価を受け、残りは返す」という発想は、多くの継続的な役務の出発点になります。開始後は一切返さないという定めは、この出発点から離れる定めです。離れること自体が直ちに無効になるわけではありません。ただ、離れる理由を説明できることが必要になります。

離れる理由として説明しやすいのは、役務の前提として事業者が先に負担する費用が大きく、開始後はその費用が戻らない場合です。その場合も、「開始後は全額」と一括りにせず、時期の区分ごとに、事業者に生ずる費用の大きさに応じて段階をつけます。段階の考え方は次のとおりです。

開始前後の返金の段階(数値は伏せた一般的な例)

  1. 申込み後〜手配の前

    控除は小さい

    事業者に費用がほとんど生じていない時期。預り金を返し、事務に要した実費のみを控除する書き方が考えられる。

  2. 手配の後〜開始の前

    実費を控除

    第三者への支払いなど、戻らない費用が生じた時期。実費の内訳を明示して控除し、残りを返す。

  3. 開始の後(一部提供済み)

    提供分と実費を控除

    提供した部分の対価と、戻らない実費を控除し、未提供の部分を返す。控除の合計が提供の割合を大きく超えないようにする。

  4. 提供の完了後

    返す対象なし

    役務を提供し終えた後は、原則として返す対象がない。提供の内容に不足があれば、別の問題として扱う。

段階の数や区切りの時期は、取引の事情で決まります。段階ごとに「何を控除して、何を返すのか」を文章にしておくことが大切です。

「○%を控除する」とだけ書くと、その率の根拠を求められたときに答えに詰まります。段階の区切りごとに、控除の中身(提供済みの対価、実費)を書いておくと、率ではなく内訳で説明できます。

なお、予約金や申込金のように、契約の成立の前後に受け取る金銭には、手付なのか、前払金なのかを書いておく必要があります。民法557条1項は、買主が手付を交付したときは、買主はそれを放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、相手方が履行に着手するまでは契約を解除できる、と定めています。手付と前払金とでは、返金の理屈が違います。受け取った金銭の性質を条文に書いておくと、返金の可否を説明するときに理屈が混ざりません。

事業者に原因があるときの扱いを、先に書く

返金しない条項で見落とされやすいのは、事業者の側に原因があって役務を提供できなかった場合の扱いです。「理由の如何を問わず」「いかなる場合も」という書き方は、利用者が自分の都合で解約する場面を想定して書かれていますが、読む側は文字どおりに受け取ります。

民法の出発点を確認します。債務者が債務の本旨に従った履行をしないとき、債権者は損害賠償を請求でき(415条1項)、相当の期間を定めて催告しても履行がなければ契約を解除できます(541条)。債務の全部の履行が不能であるときなどは、催告なしに直ちに解除できます(542条1項)。解除した場合には、前に述べた原状回復の義務が生じます。一方、当事者双方の責めに帰することができない事由で債務を履行できなくなったときは、債権者は反対給付、つまり対価の支払いを拒むことができます(536条1項)。逆に、不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるときは、債権者は541条・542条による解除をすることができません(543条)。

つまり、民法の下では、「事業者に原因がある」「双方に原因がない」「利用者に原因がある」の三つの場面で、返金の結論が違います。返金しない条項が、この区別を無視して全場面に及ぶと読まれると、事業者に原因がある場面での返金を封じる定めとして、解除権を放棄させる条項(消費者契約法8条の2)や、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項(同法10条)の問題になります。三つの場面の整理は事業者の都合・不可抗力で提供できないときの返金の決め方で詳しく扱います。

書き方の対応は単純です。返金しない定めの適用範囲を「申込者の都合による解約の場合」と限定し、事業者の責めに帰すべき事由や事業者の事情で提供できない場合は、別の条で「提供していない部分を返金する」と定めます。返さない定めと、返す定めが対で置かれていれば、返金しない条項が全面的な不返還でないことが、文面から分かります。

もう一点、返金するかどうかの判断を、事業者が一方的に決める書き方があります。「返金の可否は当社が判断する」「当社が相当と認めた場合に限り返金する」という書き方です。解除権の有無を事業者に決めさせる条項は、消費者契約法8条の2が問題にする書き方に近く、同法10条の審査も受けます。例外的に返金する場面は、事業者の裁量ではなく、あらかじめ書いた事由で定めておくほうが、運用も説明も安定します。

確認の問いと理由返金しない条項を見直すときの問い

  1. この定めは、利用者が自分の都合で解約した場面に限って適用される、と文面から読めますか。

    「理由の如何を問わず」と書くと、事業者側の原因で提供できなかった場面まで含まれて読まれる。適用範囲を限定する語を入れるかどうかで、無効と評価されるリスクが変わる。

  2. 事業者の責めで提供できなかったとき、提供していない部分を返す、と別の条に書いてありますか。

    返さない定めと返す定めが対で置かれていると、返金しない条項が全面的な不返還ではないことが文面から分かる。

  3. 返さない金額を、提供済みの対価と実費に分けて説明できますか。

    説明を求められたときに、内訳を示せる状態にしておくための問い。内訳が出せない控除は、争いになったときに根拠を示しにくい。

  4. 「開始」の時点は、一つに決まっていますか。

    複数の時点を「いずれか」で並べると、実質的に何も提供していない段階が開始後に入ってしまう。

  5. 法定の出口の外側にある、約定の部分だけを書いていますか。

    法定の出口を狭める特約は、特定商取引法の規定により無効になるものがある(9条8項、24条8項、48条8項、49条7項)。法令上返金が必要な場合を除くことを、規約の中に明示する。

書き方の例:返金の取扱いの条文と、書き直しの順序

ここまでの整理を、一つの条にまとめると次のようになります。書き方の例(一般的な例)です。

条文例返金の取扱い(書き方の例)

  1. 申込者は、本サービスの提供開始前に契約を解約する場合、受領済みの料金から、当社が第三者に支払い、返還を受けられない費用(以下「手配済費用」といいます。)を控除した額の返金を受けることができます。
  2. 申込者は、本サービスの提供開始後に契約を解約する場合、受領済みの料金から、提供済みの部分の対価と手配済費用を控除した額の返金を受けることができます。提供済みの部分は、提供の単位(○回、○か月など)を基準として計算します。
  3. 前二項にかかわらず、当社の責めに帰すべき事由または当社の事情により本サービスを提供できなかった場合は、当社は、提供していない部分に相当する料金を返金します。
  4. 本条の定めは、法令により申込者が契約の申込みの撤回または解除をすることができる場合に、その権利を制限するものではありません。この場合の返金は、法令の定めに従います。
  5. 返金は、返金事由が確定し、返金先の情報を受領した日から○日以内に行います。

条文例の「提供開始」は、別の条で一つの時点に定義しておく前提です。控除する費用の内訳は、求めがあれば説明できる形で記録しておきます。

この条文例の第1項と第2項は、開始の前後で返す範囲を分けています。第3項は事業者に原因がある場合の例外、第4項は法定の出口との関係、第5項は返金の期限です。返金の期限や方法、控除できる費用の決め方は返金の手続・期限・手数料の決め方で扱います。

返金しない条項を書き直す順序

  1. 現行の返金に関する文言を、すべて書き出す規約、契約書、キャンセルポリシー、特商法表記、申込み画面、広告に散らばる、「返金しない」「返金不可」「返還しない」「払い戻さない」の言い換えまで拾う。
  2. 返さない部分を、五つの区分に仕分ける提供済みの対価、手配済みの実費、預り金、違約金、入会金のどれに当たるかを、文言ごとに割り当てる。割り当てられない文言は、理由が書かれていない部分。
  3. 開始の時点を一つに定義する「いずれか」で並べた時点のうち、提供の実質が始まる時点を選ぶ。選ばなかった時点は、開始とは別の事実(準備の完了など)として扱う。
  4. 事業者に原因がある場面を、別の条に分ける返さない定めの適用範囲を限定し、提供していない部分を返す定めを置く。
  5. 法定の出口との関係を、一文で書く法令により解除や撤回ができる場合は、その定めに従う、と明示する。
  6. 他の書類の記載と突き合わせる複数の書類で返金の範囲の書き方が食い違っていないかを確かめる。食い違いの点検は広告・申込み画面・規約・特商法表記の整合で扱う。

全額不返還が争われやすい理由

ここまでの話を、条文の側から整理します。返金しない条項の効力に関わる主な条文は次のとおりです。

関係する主な条文

消費者契約法8条の2

事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させ、または解除権の有無を事業者に決めさせる条項は、無効。

読むとき「理由の如何を問わず返金しない」が、事業者の原因による不提供にも及ぶと読まれるときに問題になる。

消費者契約法9条1項1号

解除に伴う損害賠償の額の予定・違約金のうち、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分は、無効。

読むとき返さない金額が、解除に伴う違約金として働くときに、区分ごとの平均的な損害と照らし合わされる。

消費者契約法10条

消費者の権利を制限し義務を加重する条項で、信義則(民法1条2項)に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効。

読むとき開始の定義の広さ、控除の重なり、事業者原因の場面への適用などが総合して見られる。

民法545条1項・2項、703条

解除後は原状回復義務を負い、金銭の返還には受領時からの利息を付す。法律上の原因のない利得は、存する限度で返還する。

読むとき提供のない部分の対価を保持する根拠が問われる。

民法557条1項

買主が手付を交付したときは、買主は手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、相手方が履行に着手するまでは契約を解除できる。

読むとき予約金・申込金が手付なのか前払金なのかを書いておかないと、返金の理屈が混ざる。

争われやすい理由を、順に挙げます。

  • 返さない金額が、事業者に生ずる損害を超えて見える。返さない金額に、提供のなかった部分の対価まで含まれていると、解除に伴う違約金としての審査(9条1項1号)を受けたときに、平均的な損害との差が問われる。
  • 提供のない部分の対価を保持しているように見える。預り金を「返金しない」に混ぜると、提供のない部分の対価を取り込む定めと読まれる。
  • 事業者に原因がある場面まで含んで読める。「理由の如何を問わず」の一言で、事業者の不履行による解除の場面が封じられる。
  • 法定の出口を遮るように読める。「クーリング・オフはできません」「解約・返金は一切認めません」と書くだけで、法定の出口が開く取引でも、その定めが特約として不利な内容になる。
  • 契約の前に読める形になっていない。消費者契約法3条1項1号は、事業者が消費者契約の条項を定めるに当たって、権利義務の内容が解釈について疑義が生じない明確で平易なものになるよう配慮する努力義務を定めています。返金条項が、申込み前に読める場所にあり、平易な文章で書かれているかも見られます。

また、条項の効力は、個別の紛争のほか、適格消費者団体による条項の開示の要請(消費者契約法12条の3)や差止請求(同法12条3項)の場面でも問われます。返金要求や指摘を受けたときの対応の流れは返金要求を受けたときの仕分け・記録・対応で整理します。

起きがちなこと

返金しない条項で起きがちな食い違いを、場面ごとにまとめます。どれも、特定の事業者の話ではなく、多くの契約書で見られる傾向として挙げる一般的な例です。

起きがちなこと

  • 返金しない条項は規約の奥にあるが、広告や申込み画面には書かれておらず、読まれないまま申込みが完了する。
  • 「開始」の定義が複数あり、申込み直後の自動メールの時点で開始とされてしまう。
  • 事業者の都合で提供が止まったのに、「開始後は返金しない」を理由に返金を断り、争いが大きくなる。
  • 控除した金額の内訳を聞かれて、提供済みの対価と実費に分けて答えられない。
  • 入会金を返さない理由が「名目が入会金だから」としか書かれておらず、実質は最初の期間の前払いと見られる。
  • 規約、契約書、キャンセルポリシーで、返金の範囲の書き方が食い違っている。
  • 法定の出口が開く取引なのに、「クーリング・オフはできません」と書かれている。
  • 予約金や申込金の性質(手付か、前払金か)が書かれておらず、返金の可否の理屈が混ざる。

返金しない条項を整える作業は、最後に全体の設計の中に置き直すと安定します。取引の型の見分けから、出口、金額、手続、表示までの順序は解約・返金の規定づくりの全体地図にまとめています。

よくあるご質問

「返金不可」と書いてあれば、返金の求めを断ることはできますか?

書いてあるだけで断れるとは限りません。返金不可の定めがあっても、クーリング・オフなどの法定の出口は消えません。また、事業者に原因があって提供できなかった場面まで含んで読まれる定めは、消費者契約法8条の2や10条の審査を受けます。断れるかどうかは、取引の型、返さない部分の性質(提供済みの対価か、戻らない実費か)、事業者側の原因の有無によって決まります。返金しない部分を区分に分け、理由を添えておくと、断る場合の説明も、応じる場合の線引きも明確になります。

返金から「事務手数料」を一律に控除してもよいですか?

何に対する控除かを説明できる範囲であれば、設計することはできます。ただ、決済の方法や金額に関係なく同じ率を控除する書き方は、実際に生じる費用との差を問われやすくなります。控除は、提供済みの対価と、第三者に支払い済みで返還を受けられない実費という性質の説明がつく部分に絞り、内訳を求められたときに示せる形にしておくのが安全です。解約の原因が事業者側にある場合は、控除を置かない書き方が整合的です。

入会金は返金しなくてもよいですか?

入会金が何に対する対価かによります。会員登録の事務や資格の付与に対する対価であれば、登録が完了した後は返金しない、とする理由を書けます。実質が最初の期間の前払いの役務の対価であれば、提供前の解約では、その部分を返金の対象にする必要があります。名目が入会金であることだけを理由にしても、説明としては足りません。何の対価か、何を提供するかを内容で書き、登録の前後で扱いを分けておくのが基本です。

動画やダウンロード教材は、一度視聴・取得したら返金不可と書けますか?

書くこと自体が禁じられているわけではありませんが、取引の型で出口が変わります。通信販売の商品には、広告に特約を表示していなければ、引渡しを受けた日から8日を経過するまでの返品の制度があります(特定商取引法15条の3)。役務の提供にはこの制度は及びません。教材が商品として扱われるのか、役務の一部なのかは、内容と提供の方法によって異なります。提供の単位、アクセスの時点、提供が完了したとする時点を定義し、返さない部分と返す部分を分けて書いておくことが大切です。

「法令上返金が必要な場合を除き」と書いておけば、無効のおそれはなくなりますか?

一定の効果はありますが、それだけでは足りません。法定の出口との関係を示す但し書きは、法定の出口を狭める特約になることを避けるうえで有益です。ただ、約定の部分そのものが、解除に伴う違約金として過大であったり、事業者の原因による場面まで含んで読まれたりする場合は、9条1項1号や8条の2、10条の審査の対象になります。但し書きは、条項全体の整理の代わりにはなりません。返さない部分の区分と、事業者に原因がある場面の例外を、本文で整えることが先です。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、取引の内容や契約の経緯によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で参照できます。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 / 特定商取引法ガイド / 国民生活センター

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